飛天といえば敦煌。敦煌といえば飛天。
最初に敦煌莫高窟へ行った時に1番印象に残ったのは、主尊の荘厳を際立て壁から天井まで縦横無尽に飛び交う無数の飛天。
以来わたしは飛天好き(笑)

最後に行ったのも今から十数年前…今は様子が違うかも。
飛天のルーツは、インドではインドラに仕えるガンダルヴァ。
仏教では天界の楽神であり帝釈天の眷属、乾闥婆(けんだっぱ)だと言われています。彼らは男性型です。
カンダルヴァはともかく、仏教天部に取り込まれた乾闥婆(けんだっぱ)は天部八部衆。鎧装束に身を包み飛翔には敵さぬ造形になってます(笑)。
サラスヴァティ―、インドラ、カーリー、アフラ・マズダ…外部宗教から神々をどんどん取り込み容赦なくアレンジする仏教天部のカオス。面白い。
天を翔ける有翼・無翼の存在
東西問わず人間にとって「自在に天を飛ぶ」存在は憧憬の対象でした。
オリエント・ペルシャ最古の宗教・ゾロアスター教のシンボルの1つに「有翼の輪」があります。(一説には創造神アフラ・マズダ~東へ伝播し仏教に取り込まれ阿修羅になります)
「天の国」に属する者・天からの御使いは空を飛ぶ→翼を描く→ゾロアスター教から「天使」の造形に発展したとも伝えられています。
敦煌より更に西に位置するクチャ・キジル千仏洞には有翼の飛天~天使ですよね~の壁画が残存しています。有翼のアスラもいたような(うろ覚え)。
クチャはインド人鳩摩羅什が滞在し摩訶般若心経を翻訳した場所であり、ゾロアスター教の有翼造形やアフラ・マズダが描かれてもいる、まさに東西文明の十字路シルクロードを象徴するオアシス都市です。

鳩摩羅什像とキジル千仏洞
クチャ、敦煌、トルファンなどシルクロード要所の仏教遺跡はオリエントペルシャ文化、インド文化、仏教文化、唐代文化ごった煮でたまらない魅力があります。
西からの有翼の存在と、インド的な無翼かつ上半身裸体の楽神がミックスして、「天衣」「羽衣」で天を翔る無翼で優美な「飛天」が誕生したのかもしれません。
飛天の役割
楽神・ガンダルヴァは香しか食さず、全身から香の香りを漂わせていると伝えられています。
音楽と香といえば…古来インドでは貴人を迎える時に楽と香と散華で荘厳します。(ボリウッド・インド映画でもそんなシーンが良くあるような…)
わたしがダラムサラ(チベット亡命政府)滞在中にダライ・ラマが2回、外遊から帰国しました。帰国日のメインストリートの両側には、香炉を掲げた人々が朝から並んで、「いつダライ・ラマが通るかも分からないのに!?」と驚いたものです。
貴人や聖人が通る空間を、聴覚(音楽)・嗅覚(香と花の香り)・視覚(散華)…五感的に満たして向かえるのは宗教的かつ普遍的な供養。
仏典を読んでいると供養物の記述にやたらと出会います。丁度手元にある「法華経」でも…
かれらは種々の花や香木・香料・花環・油膏・香粉・衣服・傘蓋・旗・吹き流しをサハー世界に向け投げ、また種々の装飾品や服飾品、頸飾り・半連の頸飾り・宝玉・宝石なども投げた。そして種々の花や香木・香料・花環・油膏・香粉・衣服・傘蓋・旗・吹き流しなどや頸飾り・半連の頸飾り・宝玉・宝石、みな共に遥か娑婆世界に散ず。 法華経「如来神力品」
教えのありがたさや功徳を「物質的に価値ある物」でだらだらーっと表記してる感じですが(笑)、
とても言葉や物質では表せない如来や浄土の荘厳かつありがたいさまを、人間に理解できるような物質表現で描写しているのです。
敦煌飛天の造形
上記の成り立ちや役割があるので、敦煌の飛天は、
- 上半身裸体・裳裾や天衣が飛翔の風を受けて長く天に舞い(この翻る衣がとても特徴的なのです)
諸仏を礼賛するための所作を行う。
- 楽器を奏でる飛天
- 散華する飛天
- 香炉を掲げる飛天
そんな造形で描かれています。
わたしの飛天龍&飛天鳳凰は「天部括り」の絵ですが、これから「菩薩部」「如来部」を迎えるために散華しているシーンです。
天女との関わり
飛天だろうが天女だろうが、天部の女性形という意味では同じかもしれないですね(笑)
シルクロードから東へ飛天が伝播し、より中華的要素が強まり天女となり日本へ伝わった(飛天が動なら、天女は静的な)印象があります。
個人的に、天女は羽衣取られて人間の嫁になったりするけど、飛天はそこまで人間界と関わらない&演奏したり散華したり香を焚いたり…天空を忙しく動いてる印象が。
わたしは天女には全く萌えませんが飛天は敦煌以来大好きなので(笑)、わたしが描いてる絵は天女ではなく「飛天」です。
- 飛天1「飛天龍」/聖獣画7
- 飛天2「飛天鳳凰」/聖獣画8